投資に対してどれだけの見返りがあるのか、経営的な判断をするのは当たり前のことです。見返りは金銭的な利益だけとは限りませんが、定量化しにくい指標というのは判断材料として適しません。そして、医療系ソリューションには定量的評価が難しいものの方が多いのが事実です。

投資額を回収しにくい医療制度

そもそも医療施設というのは一般的な営利企業と違い、設備投資分を見越して報酬を請求することが出来ません。診療報酬の算定基準は、要件を満たしているか否かだけであって、設備投資の有無も大小も関係がありません。従って、投資を行う際には「患者数が増えるなりなんなりして、投資額を上回る。」と判断できない限りはコストとしか言えないわけです。新たな診療報酬として認められるには、それなりのエビデンスと実績が必要であり、身銭を切ってまでこれを実証するのは非常に困難です。また、多くの施設の努力によって診療報酬に収載されても、C/Pに見合わない保険点数であったり、改定による点数の縮小など、十分な投資分の回収が出来ないリスクもあります。経営的に余裕がない医療法人にとっては、必要充分な要件を満たせば、それ以上を求めないと判断することも止むを得ない背景もあるわけです。

では、他の医療先進国ではどうなっているのでしょうか?電子カルテを物差しとして話をすると、日本の普及率が35%前後なのに比べ、ノルウェー、オランダ、イギリス、ニュージーランドなどは99~95%と高い普及率を示しています。アメリカやドイツ、カナダはそれよりも少し低い水準となりますが、それでも80~50%と日本よりは普及しています。日本とこれらの国との違いはどこにあるのでしょうか?医療水準やIT関連技術、経済規模どれをとっても日本が遅れをとっているとは思えません。

国を挙げての取り組み

結論として、この差を生んでいるのは、国(政府)がどこまで介入しているかに尽きると思っています。例えば、イギリスでは99~100%の電子カルテ普及率のイギリスなどでは、Pay for performance(※1)という成功報酬制度を取り入れていますし、フィンランドやカナダなどでは、国が主体となってEHR導入を進めています。韓国では、医療と社会保険・金融・教育分野のIDが共通化され、どの医療施設でもひとつのカードで保険確認等が出来るようになっています。日本の場合、マイナンバーや日本版EHRだ、データ連携基盤だ、と色々掛け声はかかっているのですが、その内容と進捗状況にはあまり危機感が感じられません。いずれにしても、民間や業界主導では限界が既に見えており、国家主導で「こうやります!」と積極的に介入しない限り、利権構造や囲い込みのしがらみから抜けられない印象が拭えません。多くのベンダーさんとお話させていただいていますが、企業規模が大きくなるほど情報公開に消極的なる傾向にあるのは事実です。もちろん様々な事情があるのは理解できますが、国が動きにくいからこそ、その大きな影響力をバックに、ユーザー目線での改革をして頂けるとありがたいのですが・・・。

※1 余談ですが、先に述べたP4P制度にも問題があって、診療の標準化・実施に対するプロセス上のエビデンスは評価されているものの、殆どの研究においてアウトカムに結びつかないということが示唆されるエビデンスとなっているようで、医療政策や医療経済学の方面の方からは否定的な意見が見られます。

追いついていない法整備

昭和23年に医療法が制定されて以来、医療の現場は大きく様変わりしました。その度に、新しい法令やパブリックコメントが出されて来ましたが、決して充分ではない部分があります。例えば、筆者は個別指導の際にカルテ記載の形式について指摘を受けたことがあります。厚生局の職員は、普通の対面診療を前提とした2号用紙記載の話をされるのですが、どう考えても指導内容が維持透析の実情にはどうしてもそぐわないのです。向こうとしては原則論を述べるしかないのでしょうが、どうにも釈然としませんでした。昨今では、遠隔診療がホットなトピックとなっていますが、こちらも所謂法的グレーゾーンなのではないかということでリスクを取れないと判断される施設をいくつも見てきました。

日本は、ベネフィットよりもリスクを重要視する国民性ですから、医薬品医療機器等法なども含め、様々な訴訟リスクも考慮しなければいけないことも阻害要因のひとつとなっている気がしています。

つづく