今回は、院内で医療従事者兼SEとして働く私の視点から書きたいと思います。そもそも、病院内にSEもしくはシステム管理者などが常駐している病院がどれだけあるのでしょうか?どこをしらべても出てこなかったのであくまで推測ですが、おそらく全施設で見たら0.1%以下ではないでしょうか。一部の個人病院や大学病院などのように、院内に常駐するSEを常駐させている施設もありますが、システム管理者ではなく開発者ということになると、もっと少数派になるかと思います。外注の客先常駐SE(顧客の社内に常駐するSEのこと)に関しても、電子カルテメーカーさんなどでも導入期支援でくらいしかあまり聞きません。もちろん、独自にシステム開発しているドクターやコメディカルもたくさん知り合いにいますし、外部にシステム会社を持っている医療法人さんも知っていますが、組織的に活動するとなると難しく、やはり少数派である事は間違いありません。
業務システム開発における考え方
海外を引き合いに出してしまうと、事情が違うだろ!と言われてしまいそうですが、まずは聞いていただければと思います。例えばアメリカの場合、業務の基幹をなすシステムは独自開発されたものが多いのです。もちろん開発費がかかる話なので、必ずというわけではありませんが、規模が大きくなるに従ってその傾向は顕著になります。この理由は至極簡単で、「システムに合わせて業務を変えなければいけなかったら、業務の効率化につながらない」と考えているからです。自分たちが考えた業務をスムーズに実行するためのものが業務支援システムであるのならば、お仕着せのシステムの仕様が窮屈に感じるのは当然の帰結です。
また、日本のように国民皆保険ではありませんので、諸外国の医療施設の経営者は、日本人経営者に比べて概ねシビアな経営的視点を持って望んでいます。例えば、アメリカのクリーブランドクリニック(超有名な急性期病院ですね)などの超一流病院では、医師もミニMBA講座のようなものを学ぶことが仕事の一部となっています。医院を開業する際には、電子カルテやオーダリングシステムより先に、PMS(Practice Management System:医院マネジメントシステム)を導入、来院患者数や収益を視覚化し、コストの回収を考えるのです。
導入時・稼動後のシステム運用に関する考え方
導入時・稼動後のシステムの運用に関しても考え方が大きく異なります。日本の場合、完成されたパッケージ製品を購入し、一部機能だけカスタマイズすることが多いように感じます。また、多少の不都合ならば、と眼を瞑ってしまっているケースも散見されます。何かある度にカスタマイズするのはコスト面でも負担ですし、業者との折衝することが負担と考えているからです。その為、導入の前にヒアリングを行ってもらい、事前にシステムの確認を行うのですが、この作業があまりきちんとなされてるとは思えないケースが多く、実際に相談されることも多いのです。確かに、この一連の作業は煩わしく感じるかもしれません。ですが、とても重要な工程なのです。ユーザーは、正しいニーズを伝えることでベンダーから最適な提案を用意してもらい、ベンダーは顧客が何を求めているのか真摯に聞き取り、正しい情報を公開する。この事が適切に成されていないために、導入後不満が発生するのです。双方のコミュニケーション不足から始まった些細な手抜きが、ユーザー側からしてみると、期待していれば裏切られたとの思いに、懐疑的な思いはより強固な反発へとつながるのです。
システム開発の手法には、詳細な設計図を作り完成品を作り上げて売るウォーターフォール型開発と、現場で細かい改修を続けながら作り上げていくアジャイル方式とあります。業務システムの意義を考えるとアジャイル型が適していると考えられますが、この手法は多くの労力と時間を必要とします。システムの専門家のいない医療施設でアジャイル型の開発をするには、費用のかかる常駐SEを置きつづけ、膨大な開発費を払うということになり、非現実的な話となってしまいます。パッケージの製品を購入する際には、このことを避けるためにも、導入前後の双方の綿密な打ち合わせが必要となるのです。
医療側と企業側の思惑の乖離が大きい
この様に、医療側は「システム導入したら改善される」と漠然と考えていますし、企業側は「良いもの作ったんだから上手く使って貰わないと」と考えているわけですが、この状態でお互いに思考停止してしまっているのが普及を妨げる要因のひとつだと感じています。外資のシステムでは、こちらが煩わしいと感じるほど、導入後にも運用面でのサポートなどの介入をしてきます。もちろん、カスタマイズが発生すれば売り上げになるという考えもあるのでしょうが、「何か不都合はありませんか?もっと活用できそうな案内が出来ます。」と連絡してくるサポートの対応をしていると、こちらが連絡するまで何も言ってこないベンダーとでは良好な関係は構築できなさそうだなと感じてしまいます。システムの運用に際し、もっとアクティビティをもって改善対策を行うことで結果が出る。そして、その成功体験こそが、更なるシステムの導入、業務改革へとつながるはずです。
導入前後の負荷に関しては軽減する方法というのもいくつかありますが、今回はテーマと異なりますのでまた別の機会にいたします。
つづく