電子カルテの入力はパソコン操作に対する「慣れ」やタッチペンやタブレット端末などの「入力デバイスの進化」により、かつてに比べて遥かに使いやすいものになりました。しかし、在宅医療の現場では、外来医療での常識はそのままあてはまらない。在宅医療こそ、最新の入力デバイスの活用の場があるのだ。

■キーボードとマウスが診察を遅くしている

電子カルテの普及率が40%を突破した2018年現在、医師が電子カルテを操作しながら診察する光景は見慣れたものになりつつある。一方で、電子カルテの導入によって、「患者さんの顔をあまり見られなくなる」「パソコン操作が苦手だと診療に集中できない」「患者さんが多いと入力が追いつかない」といった意見も耳にする。

電子カルテの入力デバイスは「キーボード」と「マウス」が一般的であるため、この2つのデバイスを自在に活用できなければ、結局はパソコン操作に振り回されてしまうことになりかねない。その際、「最初のうちは戸惑うかもしれませんが、電子カルテはパソコンの苦手な人向けに創られているので、3ヶ月もすれば慣れますよ」とアドバイスしてきた。また、「タッチペンを使って手書きで書ける電子カルテもあるので、そちらを利用してみてはいかがでしょうか」と、手書きに強いこだわりのある先生にも、手書き電子カルテの利用を推薦してきた。

しかしながら、これらの流れは在宅医療の現場では、少々勝手が違うようである。

電子カルテを操作する時間、場所が限られている

在宅医療では患者宅に出向いて診察を行い、患者宅や移動の合間に車内でカルテの記載を行うのが一般的だ。カルテを記載する時間が十分に確保される場合は、この方法で問題ないのだが、特別養護老人ホームや高齢者集合住宅など、一度に多くの患者を診察するケースでは、診察と診察の合間が十分にとれない。「各部屋を回りながら一度に何十人もの患者を診るため、カルテの記載が追いつかない」との悲鳴をよく聞く。

特に忙しい医師などは、部屋を出てすぐ忘れないうちにカルテを記載しようと、壁を机がわりにカルテを書く光景が見られることさえある。ノートパソコンを広げ、電子カルテを入力するような悠長なことができないというのだ。

スマホの音声入力機能の活用

そこで最近取り組まれつつあるのが、音声入力システムの活用である。これは放射線部門では一般的な、音声をテキストデータに変換するシステムで、多くの情報を瞬時に入力できるデバイスとして定着している。この技術を在宅医療で利用しようとする取り組みが出てきている。しかも、この音声入力システムをiPhoneやiPad miniなどのスマートデバイスに搭載することで、さらに手軽に複数の患者のカルテ情報が入力できるようになるのだ。

たとえば、「BT120/60、異常なし、体温37.6度、微熱あり、前回と比べて褥瘡のレベルは悪化」といった診察内容を瞬時に、テキストデータとして変換して記載することができる。この仕組みがあれば、もう壁に向かってカルテを書かなくてもよくなり、移動の合間に歩きながらカルテが書けるようになるのだ。見た目もスマートだし、医師のカルテ記載の負担も大幅に減少する。

また、スマホのカメラ機能を使えば褥瘡の写真だって管理できる。在宅医療では、スマホで電子カルテ、ぜひ使ってみて欲しいシステムである。