ひろめるCASE002
楊 浩勇様かける大西 大輔様2016.12.15 公開経営支援システムの導入で
診療所経営難の時代を乗りこえてゆく。

写真: 川島史子様
株式会社メディ・ウェブ
代表取締役会長 楊浩勇様
兼務 医療法人健究社 理事長
ホームページ http://www.mediweb.jp/
写真: 宮本 研様
MICTコンサルティング
代表 大西大輔様
兼務 メディキャスト株式会社顧問
LINQUAプロデューサー
ホームページ http://mictconsulting.com/
http://www.medicast.jp/

経営意識が高まる現代に
求められるPMS

大西さん

本日は、電子カルテとPMSというテーマで、メディ・ウェブの楊先生にお話を伺います。まず、日本ではPMSという言葉にあまり馴染みがありません。PMSとはどんなものでしょうか?

楊さん

PMSはPractice Management Systemの略で、米国では一般的にクリニックを開業する際に、必ず導入するシステムです。わたしが米国のハーバードにフェローで行っていた際に出会いました。

PMSは、診療予約システム、診療圏分析システム、コーディングシステム、レポーティングシステム、請求システム、患者とのコミュニケーションシステムなど医療機関経営を支援するシステムの総称です。米国では、通常、開業時には『電子カルテ』と『PMS』を導入します。

大西さん

電子カルテが診療そのものを支援するシステムであるのに対して、PMSは、診療に付随する業務を支援するシステムということですね。しかし、日本ではなぜPMSという言葉も、考え方もあまり定着していないのはなぜでしょうか?

写真: インタビューに応える楊さん
楊さん

日本と米国の医療機関を取り巻く環境の違いが大きく影響していると思います。米国では、医療におけるドクターは必ず、臨床とともに、マネージメント、特にマーケティングについて学びます。しかし、私の医学生時代は日本でマーケティングを学んだ覚えはありません。おそらく、マーケティングを学ばなくても医療機関経営ができたのでしょう。

大西さん

日本は戦後一貫して診療報酬改定はプラス改定で、収入が確保されてきました。経費についても、医療機関に対して優遇税制が存在しており、かつては医療機関経営はそれほど経営に意識がなくても経営できていたのかもしれませんね。

楊さん

そうなんです。わたしも診療所を経営していますが、昔はそれほど経営を考えなくても、質の高い医療サービスを提供すれば良いという時代もありました。診療報酬も上がらない時代となり、診療所の院長は経営に長けていなければやっていけない時代になっていると思います。

大西さん

医師の経営意識が高まっている今こそ、PMSというシステムが必要ということですね。

写真: 楊さんの話に耳を傾ける大西さん
楊さん

また、日本の医療IT化の発展プロセスも大きく影響していると思います。日本の医療IT化は、レセプトコンピュータ、そしてオーダーリング、電子カルテと順次発展してきました。診療報酬請求事務を効率化することが真っ先に取り組まれ、すべてのシステムがレセコンの延長線上に存在するという系譜をたどっています。

大西さん

レセコン一体型電子カルテという言葉にも表れていますね。まずはレセコンありき。そのため、電子カルテ、画像ファイリングシステム、診療予約システムが、レセコンを中心につながっていますね。

楊さん

通常、企業は顧客との関係を管理するため、『顧客台帳』という仕組みを重要にしています。いまではCRM (Customer Relationship Management)によって、顧客の様々な思考・行動をデータマイニングして、販売戦略に活用しています。このような考え方は、診療所にはあまりなく、そもそも診療所の顧客台帳はレセコンの中に一部機能として含まれていました。そのため、レセコンをベースに様々なシステムがつながる仕組みとなったのでしょう。

大西さん

今後は診療所にとってもCRMという考え方が重要になるということですね。

写真: 楊さんと話し合う大西さん

医療IT化による
データ活用の重要性

楊さん

日本はインターネットの普及によって、ITリテラシーが急激に上がったと思います。なんでもインターネットで調べる時代、医療機関も患者様から調べられる時代となったのです。また、インターネットに慣れてきた国民は情報を選別する力が格段についてきました。自分に必要な情報をスピーディにピックアップできるようになっているのです。現在は、医師が患者様に選ばれる時代が到来していると言えるでしょう。

大西さん

かつては患者様に医院の特性、得意なこと、などをPRするには、口コミか健康教室、地域での講演会などしかありませんでしたが、いまではホームページはもちろんのこと、ブログやSNS、口コミサイトすら存在する時代で、患者様に選ばれるために情報発信をすることが容易になっていますね。

楊さん

わたしは、メディ・ウェブでPMSのひとつとして、診療予約システムから始めました。診療所における待ち時間の緩和が診療所がIT化によって改善できると考えたからです。また、クラウド技術を利用することで、コストダウンを実現でき、多くのユーザー様に当面無料でサービスを提供できました。診療予約システムを導入した多くのユーザーの声をシステム開発に活かすことができています。

写真: 医療経営支援アプリシリーズ「3Bees(スリービーズ)」のイメージ

メディ・ウェブによる医療経営支援アプリシリーズ「3Bees(スリービーズ)」

大西さん

わたしも最近、診療予約システムを導入した診療所で、びっくりしたことがありました。高齢者の多い診療所では診療予約システムは導入できないと長らく言われていましたが、いまでは70代でもインターネットが使えるため、思っていたよりも多くの方が診療予約システムを使用していたのです。また、診療予約によって得られるデータ(顧客動向)を分析して、さらに待ち時間短縮に活かしたいと診療所から申し出をいただきました。診療予約システムの導入効果は、『待ち時間の短縮や残業時間の短縮』だけではなく、『患者動向の見える化』により、診療所がマーケティングの重要性、データの活用に気づけたことも大きいと思います。

楊さん

診療データ、受診データといった、データを生かす動きは、特に経営面で大きな効果をもたらします。診療所経営を安定的に、数字的な根拠をもって行いたいと考える医師は、実は多くいます。それは統計的なエビデンスを信用するという考え方が医師にしみついているからだと思います。日ごろから検査に基づき診療をするという行為によって根付いたのだと思います。

実態を“見える化”し、
経営の不安を解決する

大西さん

たしかに、数字を信用するドクターは多いですね。その中で、今度メディ・ウェブからリリースされる経営分析サービスについて教えてください。

楊さん

診療所経営実態を見える化するために、財務データとレセプトデータを分析し、リアルタイムに経営状態を把握できるサービスです。サービス名は『コンパス』と名付けました。また、わかりやすいグラフを使うことで、ビジュアル的に瞬時に把握できるようにしています。私もそうですが、数字の羅列では情報が瞬時に把握できません。見え方を工夫することで、医師は経営状況を理解しやすくなるのです。

写真: 「医療関係者の力でつなげる・ひろめる・つくる展示会」で紹介された3Beesのアプリ

「医療関係者の力でつなげる・ひろめる・つくる展示会」でも3Beesのアプリを紹介

大西さん

レセプトデータの分析は、医療現場にとっては非常に興味深いものですね。

楊さん

レセコンから自動的にデータを取得するよう、現在レセコンメーカーとアライアンスを組んで進めています。財務データだけでは得られない情報がレセコンにはたくさんありますから、経営上に有意義な情報が得られます。

大西さん

具体的にはどんな項目を分析するのでしょうか?

楊さん

レセコンには患者様の住所の情報がありますから、どの地域から患者様が来ているのかといった診療圏の分析ができます。また、新しい機器を購入した際に、その機器がどれくらいの収益を生み出しているのか、稼働は順調に増えているのかなども分かります。また、医師の診療上の癖も見えます。

大西さん

診療圏はマーケティング、診療行為はマネージメントの分析をしているわけですね。他院との比較ができればベンチマーク分析も可能ですね。

写真: ホワイトボードで図解する楊さん
楊さん

はい、多くの医療機関が経営分析ソフトを使用すれば、ベンチマーク分析は可能です。診療科、診療規模と比較すれば、自らが健全な経営をしているのかの指針となります。また、今回の分析サービスには『予測』という考え方も取り入れています。過去のデータから、当日の予想来院数を割り出し、実数と比較することで、診療所の異変に気づくことが可能になるのです。予想よりも大幅に実数が少ないと、何らかの異変が起きているアラームとなるのです。周囲の診療所、ホームページ、スタッフの対応など、異変の原因を探るきっかけとなるのです。

大西さん

診療所の羅針盤というわけですね。経営データに基づく科学的な経営が実現できますね。リリースが楽しみです。どんな先生方が導入の対象となりますか?

楊さん

科学的データを経営に活かしたい方なら誰でもですが、面白い分析資料がありまして、開業医が経営を意識する方は『創業期(0年〜3年)』が8割、『成長期(4年〜9年)』が5割、『安定期(10年〜)』が7割だそうです。この創業期と安定期の先生にまずは使ってほしいですね。経営上の不安を解決するソリューションだと思います。

大西さん

診療所経営が難しくなってきている現在、PMSの活用は今後注目されていくことは間違いありません。そんな状況の中、この経営分析ソフト『コンパス』は、きっと診療所経営で頼りになる相棒となることでしょう。エビデンスに基づいた経営で、この難しい時代を乗り切っていく。是非、多くの方に利用していただきたいですね。楊先生、本日は貴重なお話、誠にありがとうございました。

写真: 笑顔で握手する楊さんと大西さん
写真: 楊 浩勇

楊 浩勇
株式会社 メディ・ウェブ代表取締役会長兼社長
医療法人健究社 理事長

略歴

  • 1989年 慶應義塾大学医学部卒業。眼科学教室入局。
  • 1995年 慶應義塾大学医療政策管理学教室入局。
  • 2001年 日医総研客員研究員。
  • 2003年 ハーバード公衆衛生大学院訪問研究員。
  • 2007年 (株)メディ・ウェブ創業。
写真: 大西 大輔

大西 大輔
MICTコンサルティング代表
メディキャスト株式会社顧問
LINQUAプロデューサー

略歴

  • 2001年 一橋大学大学院MBAコース卒業
  • 2001年 医業経営コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社
  • 2002年 医療IT機器の常設総合展示場「MEDiPlaza」設立(企画運営、スタッフ指導、拠点管理などを担当)
  • 2007年 東京、大阪、福岡の3拠点を管理する統括マネージャーに就任
  • 2013年 医師の右腕を育成する「電子カルテクラーク導入プログラム」を共同開発
  • 2016年 コンサルタントとして独立し、「MICTコンサルティング」を設立
  • 過去5000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、医師会、保険医協会などの医療系の公的団体を中心に講演活動および執筆活動を行っております。